うさぎドロップ

うさぎドロップ (1) (FC (380))

うさぎドロップ  (2) (Feelコミックス)

俺 りんのことなら腹くくれるよ

個人的には子育てをしているお父さんや結婚を回避している男の人に読んでほしい作品である。

「責任」という言葉はたいてい自分自身に対しては使わないような気がする。たいてい他人が自分に対して言う言葉だ。「責任、取れるの?」「責任を考えている?」人間の能力は有限なので当然「責任」を果たせる範囲も限られてくる。責任を果たす範囲をどこに設定するかという問題は人生の中で重要な問題となる。範囲外の部分にはあまり力を使わないで重要視しない(見捨てる)ということと同じ意味になる。だから「責任」を考えるといつでも「覚悟」はできているかどうかという問題が出てくる。

「覚悟」という言葉はたいてい自分自身に対して使う言葉だ。「責任」を果たそうとする範囲をどこにも設定しないで何もかもから逃げようとする姿勢は傍から見ると格好悪い。人生の中でどこにも向き合っていない、「覚悟」を決めていない人間に見えるからだ。でも、「責任」を果たす「覚悟」を決めることを考えれば考えるほど躊躇してしまうことが多い。ある部分の「責任」を果たす「覚悟」を決めることは絶対に違う部分を切り捨てなければいけない。でも、切り捨てるには未練があるものばかりで迷ってしまう。たぶん、「責任」を果たす「覚悟」を決めたとしても時がたつとやっぱり後ろ髪を引かれて迷ってしまうだろう。だから「覚悟」を決められないときにそっと背中を押してくれるような存在や「覚悟」を決めたのに迷ってしまった時に初心に戻らせてくれる存在は大切だ。

うさぎドロップ」は 30 歳の独身の男が 6 歳の女の子(祖父の隠し子!)を預かって育てる物語である。保育園の話や親族問題などリアルに出てきそうな話題を扱いながらもさわやかに未来へ向かって進んでいく二人が描かれている。この作品のすごいところは子育ての中で現れるであろう苦難とそれを上回る子育ての中でうれしくなるときを柔らかく描いているところだ。そして、描かれた柔らかい空気の中で自然と 30 歳の男が 6 歳の女の子を育てていく「覚悟」を決める心の動きが自然に描かれている。だから「うさぎドロップ」を読むたびに僕は子育てってつらいことも多いけどやっぱり楽しそうだな、と自然に思える。(可能性は低いけど)将来もしも結婚したり子供をつくろうというときがきたとする。そういうとき、僕はまず間違いなくこの本を読み返すだろうな。だから「うさぎドロップ」は僕にとって「覚悟」を決められないときにそっと背中を押してくれるような存在や「覚悟」を決めたのに迷ってしまった時に初心に戻らせてくれる存在であり、非常に大事な作品である。(余談。知り合いが子供を捨てたのでその子供を預かって育てる、という夢を鮮明に覚えている僕にとっては非常にこの作品は運命的な作品だ。夢を見た数年後に同じような内容の作品を読むことが出来るというのは非常に幸福である。ちなみに子供を育てるため、できるかぎり一緒にいるために、夢の中で僕は会社を辞めて喫茶店を開いた。自分の開いた喫茶店の中で自分の淹れたコーヒーを飲みながら子供を眺めつつ幸福に浸っていた。そして今、僕はコーヒーを飲みながら「うさぎドロップ」を読んで幸福に浸っているというわけである)