最後に

今年の年賀状はトランプの柄になっているウサギを用意させていただきました。元々は以下の作品が面白かったからです。

この作品に載っている相沢沙呼の「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」が面白かったです。前の作品の「午前零時のサンドリヨン」は自分語りが多くて(登場人物全員が作者のように見えて)鼻についたのですが、「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」は愛すべき作品でした。影響を受けているだろう加納朋子北村薫に比べると、作品の幅が狭いですが、「マジックとミステリの相克をどうやって乗り越えるか」という題材自体が非常に面白く、またチャレンジする価値があると感じたので、どんどん深めていってもらったら面白い作品が読めそうだと感じています。

余談ですが、「午前零時のサンドリヨン」の装幀は本当にきれいで、紙の小説の威力というのをまざまざと見せつけられました。本屋でみかけたら是非みてください。すごくオススメ。

午前零時のサンドリヨン

午前零時のサンドリヨン

他に小説の力を感じたのは「私の男」。「赤朽葉家の伝説」と共に読んだのですが、引きずり込まれてめまいがしました。どろどろの愛情の粘液に囲まれた光景から北海道の風景に連れていく手腕が見事で、読んだ後、現実に戻るまで時間がかかりました。

赤朽葉家の伝説」は第三部の先祖に比べて「何も語ることがない、何も語れない」ちっぽけな物語が見事で、物語が物語として機能した時代と物語が物語れなくなった時代をうまく表しています。後で直木賞の選考を読んだときに第三部が全く評価されていなくて(というより、その意図が届いていなくて)、悲しかったなあ。

私の男 (文春文庫)

私の男 (文春文庫)

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

エンターテイメント系では有川浩の作品をざっと買ってみたりしました。読んでいて、この人の特徴は現実のつらさとか厳しさをわかっている上で、甘甘な話とかさわやかな話とかを書いて、楽しんでもらおう、現実に立ち向かう強さを持ってもらおうとするところだと感じたので、「シアター!」とか「阪急電車」とかは面白かったです。人気が出るのもわかるような気がする。

シアター! (メディアワークス文庫)

シアター! (メディアワークス文庫)

阪急電車 (幻冬舎文庫)

阪急電車 (幻冬舎文庫)

「ストーリーセラー」も面白かったのですが、技術が表面に出ている感じ(こういう風に書けることは知ってるよ!)で、この人の魅力はそこじゃないような気がする僕にとっては少し評価が低い作品でした。でも、本読みの友人が2010年のベストとして挙げていたので(かつ、有川浩のことを最初は合わないなあと思っていた、と言っていたので)、他の方の評価は高そうです。

ストーリー・セラー

ストーリー・セラー

で、個人的に一番面白かった2010年のエンターテイメント系小説は以下。

コロヨシ!!

コロヨシ!!

「掃除」という架空のスポーツを題材にした青春スポーツ小説です。フィクションを土台にどんどんと想像の幅は広がっていき、しかも出てくるキャラクターが王道的な、魅力的な性格ばかりで一気に読み終えました。他のエンターテイメント系小説だと「これはアニメでやった方が良いんじゃないの?」とか別の映像媒体に翻訳しても変わらないよなあと思うことがあるのですが、この作品を別の映像媒体に翻訳しようとすると、途端に安っぽくなりそうな気がします。

ということで、2010年の簡単な総括は終わり。いろいろと書けていない部分があるけど、次は2011年の話題にしましょう。