サマー/タイム/トラベラー

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)
サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

高校生の仲間たちのうち、一人が 3 秒後の未来に飛ぶ能力を手に入れたところから話は始まる。能力を分析・発展するためのプロジェクトを仲間内で始めるが……。

衒学的な雰囲気を装いつつ、中身はジョブナイル SF である。(ミステリ部分が少しあるけど、それは失敗していると思う)良質なジョブナイル SF の文法に則って、最後には胸に甘い痛みを残したハッピーエンドを見せてくれる。

ただし、ほとんどのジョブナイル SF が世界と自分との摩擦係数(渋谷陽一だね)から話が発展していくが、この小説にはそういった物がない。欺瞞に満ちた世界の中で、退屈の中で、ゆっくりと漂う閉塞感とそれにたいするある種の諦念。

SF というものが良い未来にせよ、悪い未来にせよ、開かれた未来を見せてくれる物だと信じているのならばこの作品は読まない方がいい。「サマー/タイム/トラベラー」の未来はどこにも開いていない。